マスコミの影響などどれほどのものか

私の読解力が正しければ、マスコミは権力によって支配されている、という事が上記のエントリではしごく真面目に語られている。
私はこのような危機感には、まったく共感するところがない。
むしろ問題なのは、ネット上の少なくない人々が容易に陰謀論に流れていく事で、それに対する危機感なら少しある。


支配という用語を使って言い換えれば、現状問題なのは、マスコミが権力によって支配されていることではなく、マスコミがエンタテイメントで支配され、それによって大衆のうちの少なくない人々が陰謀論によって頭の中を支配されている事ではないか。


マスコミを支配・操作する、政府が何かを隠蔽する、だのそういう類の話は、映画やマンガ、エンタテイメント系小説などで非常に多く見られるフィクションである。
有名どこでいうと、Xファイルとか24などは、知ってる人が多いのではないか。
むろん以前からそういう類の話はエンタテイメントでいくらでも描かれただろうが、近年、とくに人気があるとは言えないだろうか?
まあそれが思い過ごしだとしても、かなり人気を博したことは確かで、だとすれば、現在の環境というのは、どうみたって権力にとってマスコミを支配するのに全く適さない、という事がいえるだろう。
Xファイルだの24だのの世界観に嵌ることができるような人は、今のマスコミや政府が何を言おうと、まずもって半信半疑だろうから。つまり、操りにくい人が沢山たくさんいるのだ。
そして私が思うに、ネット上で陰謀論に嵌るような人は、おそらくXファイルだの24だのを見ると嵌る人だろう。


マスコミでも政府(権力)でも、ようするに世の中が自分の力の及ばない所で動かされ支配されている、そのようなフィクションが人気があるのは、自己を免罪し、自己の欠落をそれらが容易に優しく補ってくれるからである。
そこでは善悪が単純化され、世の中の不幸の原因が簡単に説明される。
がしかしもちろん当たり前のことだが、世の中は、けっしてそんなもんじゃない。
この現実には何かが隠されておりその隠されたのものによって私たちは不幸となっている、なんて事はまずない。
まずないし、そういうふうに考えたほうが良い事などほとんど思いつかない。
P・K・ディックの小説ではないのだ。
この現実のうちたいていのことは明るみになっており、私たちの不幸は私たちが解決するしかない、と考えたほうがより良い事が生まれるだろう。とまで行かなくとも良くなる可能性はまず高くなるだろう。


日本の政治が悪いことに関しては日本国民ひとりひとりが間違いなく関わっており(責任があり)、言い換えれば私たちが悪くしているのであり、そう簡単にその罪から逃れられる人はいないだろう。
そしてまた、自分の今の境遇が悪いことは政府の陰謀でもなんでもなく、たいてい多くは貴方の選択がもたらしたものである。場合によっては、就職氷河期にぶち当たってしまった病気を患ったなどという不幸なんかもあるだろうけれども。


エンタテイメントが悪い、無くせというわけではない。つねに自分自身にほとんど全ての責任を負わせながら生きるのは、非常に疲れる。たまには誰かのせいにもしたくはなるだろう。
ただ、それを現実の世界観としてはいけないだろう。テレビドラマみたいに分かりやすい悪人など、どこにいるというのか。もしこの現実に分かりやすい悪人を無理やり作り出そうとすればどうような事になるか。分かりやすい悪人を作ったことが歴史上過去に無かったわけではない。というか、むしろごく最近の話なのだが。
いま、社民党だろうが安倍晋三だろうが、アメリカだろうが、中国共産党だろうが、分かりやすい悪人がいる人は、もうそこに片足を突っ込んでいるということは意識しておいた方が良いと思う。