柳美里へのイジメ

政治的な話題を覗くことが多いと気づかないのかもしれないが、はてなも結構大衆化していて、ログインしてコメントするようなブクマコメントでも一般的な話題となるとなかなか油断できない。


柳美里が子供に体罰を与えたことに対するコメントがひどい。これこそイジメである。こういうイジメの光景のほうが母親の体罰よりよほど子供に悪影響を与えるだろう。
彼女の問題となったブログを読むと、今日の更新された分でこの件が再び言及されていて、こういう酷いコメントをする連中と同じようなメンタリティの人々によって何らかの迷惑をまだ受けているようだ。


もちろんはてなでログインしてコメントしている人が何かしている事は考えづらいし、外野でこんな事で衝突しても疲れるので、いちいちIDコールも名指しもしない。だからコメントもそのまま引用せず要約みたいな感じにしておくがこんなものがあった。


「作家の割に文章が拙い」「作家の割に言葉が軽い」
こんな日記ともいえない速度で更新されるもので、上手いも拙いもないだろう、というのが一点。
しかもある程度名の知れた作家なら、日記みたいなものでも商品となる可能性があるのだから、タダで晒しているブログに力入れて書くわけがない。
それから、作家たるもの勿論計算して拙い文章にすることもできる。重い文章にも軽い文章にもできる。計算してできないのは上手い文章だけだ。スポーツだってヘタな人が上手くプレーすることはできないが、一流のピッチャーだっていくらでもボールを投げられるし、三冠王だって何度でも空振りできる。村上春樹の文章だって、昭和30年ごろの作家に比べれば凄く軽いけど、計算し尽くされた軽さなのだ。
結局彼女のブログは、時間かけず書き飛ばしたりするときもあれば、じっくり計算して書くこともあるということではないか。どちらにしたって、ブログの文章と拙いことと彼女の評価にはなんの関係もない。


「抜粋読んだけどケータイ小説並」
抜粋で判断して悪口を言えるこの乱暴さ。しかもケータイ小説並とはケータイ小説も馬鹿にされたものだ。
私もある学者がブログに書いたものの批判をしたことがあるが、彼の専門分野であるユダヤ論とかは間接的にしか知らないのでそれについては一切批判していない。


「読んだ事なかったが、もうこの人の作品は読まない」
読んだ事無いという事はもしかしたらすごく良いものかもしれないのに、その可能性すら閉じちゃうわけですね。
なんて他人の人生の視野が狭くなることについて意見しても仕方ないが、少なくともこの程度のことで読まなくなるような人を文学は始めっから相手にしていない。
したがって痛くも痒くもない。
文学というのは、あらゆる書かれた(話された)コトバを対象にするものだ。書いたのが殺人鬼だろうとなんだろうと関係がない。それは、言葉というものが生活や倫理と密接に関係している、それどころか言葉が原初にあって生活や倫理を作り出すと考えるからこそなのだ。(例:近代を作り出したのは近代文学である)
自分とは何か、とか悩んだり、自らの存在の根底に疑問をもったり、というような人以外には文学は無用の存在だ。


「作家なのに自らも救えない」
因みに、自らも救えなかった作家としては芥川、太宰、三島などがいるけど、彼らの作品はいまだに言及されるくらい認められてますね。つまり自らを救えないことの、どこにも問題はない。
作家って、別に何かを救うとかそういう具体的な目標でやってるわけじゃないだろう。中にはそういう人もいるだろうけど。止むに止まれずというところではないか。書かずにはいられない、というような。
別の言い方をすれば、書くことによって自分が傷つくとしても書かざるを得ないというくらいの人でないと、作家になどなれないだろう。


「最近色々な女流作家が台頭してきて自分も目立とうとした?」
女流作家なんて吉本ばななが10年〜20年前にガンガン売れてるんですけど。ていうか、彼女がデビューしたくらいから、芥川賞は半分くらいが女性が受賞しているし。
というか、前回の芥川賞の候補作は半分以上が女性になってるし、主要文芸誌のその月の読切創作が女性作家しかない事も最近は珍しくない。つまり女流か女流でないかなんてことは問題にならなくなってきてるの。女性作家だから特別注目されるなんて事は全くない。
そんな環境だから、柳さんが他の作家で女流の人だけを気にするなんてことはまず無いんじゃないかな、これは。


私小説でしか悲劇が語れないのは不幸」
これはある意味真実。読者は人の幸福より不幸を読みたくなってしまうものだから。つまらない創作よりは、援助交際でも試みてクスリでも打たれそうになった話でも書いたほうが商業的には喜ばれる。
だが、ある作家がそれをしたところで他人が非難できるもんでもなく余計なお世話だし、繰り返しになるが、作家は幸せになろうとして書くわけでもない。
皆が騒げば騒ぐほど、今回の件は彼女にとっては格好の私小説ネタになるかもしれない。だからほんとに怒ってるように見えて冷静に煽ってるのかもしれない。私小説家の覚悟というものはかくもスゴイものであって、とても匿名で揶揄できるものではない。


しかしそれにしても、灼熱のクルマの中とか、極寒の屋外とかに放置したり、床に落としたりして殺してしまう親が沢山いる日本で、2食抜いたくらいでこんなに叩かれるとは、やはり彼女の属性に対する悪意が介在しているんだろうな。