フリーライド

最初これを読んで、何いってんだろうな、とまたも思ったものだ。

でも、「アルファブロガー」がネット上での自身の影響力を十分に知った上で、冷静なレビューではなく感情的に本の購買をあおり、その結果、瞬間的にアマゾンでの順位が上がったにすぎないのに

しかし自分だって、冷静なレビューではなく感情的に水村氏の本の購読をやめさせようとしてたんじゃないのか。
え?購読をやめさせようとした、というのは乱暴な言い方?ちなみにsolar氏の以前の日記にはこんな言葉が並んでいるのだ。私は乱暴とは思わない。
「彼女の主張はあちこちで自己撞着」「誇大妄想」「トンデモ本的な様相さえ呈している」(11/11より)「彼女の本がトンデモ本になってしまうのは」「「幼稚」なのは彼女の現状認識であり、オツムのなか」「この本は「日本語」や「小説」の未来とも、「文学」の未来ともいっさい関係のない、きわめて個人的な「信仰告白」の本として読むに止めるべきである」(11/12より)「俗流ナショナリズムの本」(11/14より)
ほぼ毎日にわたっている。こんな事を読まされて、それを読もうとする人がいったいどれだけいるというのか。12日なんか「トンデモ本」と言い切ってるのだ。しかもsolar氏のいう事を鵜呑みにして、「買わなくて良かった」などと読まずに批判する人がブコメにうじゃうじゃ出てきてることも、おそらく氏はじゅうぶん認識した上で、幾度も水村氏へのDISを重ねたのだ。


ついでに言えば、「アルファブロガー」がレビューに際してほんとに冷静でなかったかどうかは知らないが、solar氏の場合が冷静でなかったことは、氏がはっきり記している。
水村美苗の『日本語が亡びるとき』を冷静な頭で再読しているのだが、あらためて随所に許容しがたい記述が見られ、かえって怒りを新たにする。」(11/12の冒頭での記述)


こうやってご自分でもアルファブロガーと似たような事を反対の方向にてやっているのを気付いてしまったのか、今度はこんな事を書く。

私はこんどの水村さんの本がたくさん売れて、多くの人に読まれることはいいことだと思っている。10万人くらいの人が読めば、そのうち1000人ぐらいは、この本に含まれる間違いや誤りに気付く人がいるだろうからだ。

この理由がよく分からない。分からないのは恐らく、読まれるのはいい事だなんてのが、過去に自分が言ったことのエクスキューズめいたものに過ぎないからだろう。
その1000人が、あえて一人の(しかもsolar氏がかつてマイナーと称した)文学者の間違いに気付くことのどこに有益な事があるというのか。間違ってるなら、別に知らなくても良いだろう。
しかもところで、10万人マイナス1000人である99000人はどこへ行ってしまったのか。きっと、1000人が真実に気付けば、99000人は水村氏の言う事を信じようがどうでもよいのだろう。そのときは、残りの1000人がきっちり指導するのだろう。
これこそ目にみえる「エリーティズム」ではないのか、とか思ったりもするが、私はエリート主義を一概に否定しないので、まあいい。


ところで鴻巣友季子の言葉が引かれているが、彼女の言うことはなるほど興味深い。
「英語の国・米国は今や、言語を翻訳「される」ばかりで翻訳書をあまり出さない。この対話の不均衡が英語の地位を揺るがす日が来ないとは、誰にも言えないのではないか?」
しかしこの鴻巣氏の前半部分の認識は、むしろ水村氏と共通した認識ではないのか。そして共通していないのはsolar氏ではないのか。solar氏の11/14の記述にはこうある。

水村美苗の議論は、文学作品の「翻訳」は〈普遍語〉から〈現地語〉へという「上から下へ」の方向では可能だし、そのことで〈現地語〉が〈国語〉となるために有益でもあるが、逆向きの「翻訳」はありえない、という前提に立っている。でもそれははっきりいって嘘だと思う。

鴻巣氏はいわば水村氏の現実認識を正しいと認めたうえで、その更に向こうをみているのだと思う。つまり英語が普遍語となる状況が極まることにことによって却って均質的で脆弱になってしまう、というような。「ロシア・共産主義」が普遍化しつつあったのに、民族主義によって瓦解してしまったソ連のように。
鴻巣氏はいわば普遍化の行き着く果てに非普遍化を見てるのであって、日本にも素晴らしいものがあるから「下から上」にも行くから普遍化しない(or普遍化しても平気)というのとは違う。不均衡が揺るがすのだ。素晴らしい日本文学が揺るがすのではない。「下から上」に(ときどき)行くだけでは「上」は健全に強化されてしまうだろうから。行かなくなってしまうのが問題だ、と鴻巣氏は言ってるように思う。


こういうふうに現状認識の異なる鴻巣氏まで持ち出して自らの論を強化しようとすることを、しかし私は「フリーライド」とまでは言わない。そんなのはよくあること。